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辛口インバウンドシリーズ・第2弾・第10回・2016年東京への五輪招致失敗に関する所感

塩澤名誉教授の辛口インバウンドシリーズ・第2弾
第10回・2016年東京への五輪招致失敗に関する所感

 既に報道されたことですが、東京都と日本オリンピック委員会が中心となって、2016年夏季五輪大会を1964年以来52年振りに東京に招致するため、誘致活動に全力を尽くした。しかし残念ながらリオデジャネイロに決定し、その結果、南米で初めての五輪大会が開催されることになりました。インバウンド業界にとっても五輪招致すれば、国をあげての事業となり、日本の観光宣伝はもちろん、観光客誘致の面でも大きな成果が期待されました。

 新聞、テレビ、ラジオなどを通して、その敗因は発表されており、おそらく、招致委員会としても招致活動の反省をし、その結果は公表されるでしょう。これまで招致事業に取り組んできた関係者の方々の落胆は大変なものであり、その努力が最後に報われなかったのは誠に残念に思う一人です。日本は観光立国宣言をし、2010年までに外国人客を1000万人、更に、2016年までに2000万人を受け入れる目標を設定し実現するためにも東京への招致は達成したいものでした。

 この招致と間接的に関係しますが、日本政府観光局に長年勤務し、日本の観光地の紹介を中心に日本の政治、経済、文化、芸術などにも触れて、日本への観光客誘致をしてきた立場から、若干所感を述べます。個人的には、東京、シカゴ、マドリー、リオの4候補の中で、リオデジャネイロが最終的に選出されるだろうと初めから予想していました。五大陸のうち、南米とアフリカ大陸のみが未開催であり、IOC委員でなくても心情的に南米のリオを推薦したくなります。ブラジルのルラ大統領ほか招致委員は、これを前面に出して誘致活動をしました。2014年には、サッカーのワールドカップ(W杯)の開催も決定しており、これを実施できるのであれば、五輪の開催も不可能ではないとの見方もありました。また財政や治安面での不安がありましたが、招致の熱意と執念がこれらを払拭しました。

招致を最終的に決定付けるのは世界のIOC委員(100数名),即ち、投票権を持っている人々です。 IOC委員による立候補地の事前調査とその報告書、投票直前のプレゼン、各IOC委員への働きかけなどが投票の裏付けとなりますが、最終的には、各国の招致委員などと各IOC委員とのAMIGO(友人)の親密度が票を左右すると思います。それには、各IOC委員に幅広い影響力を持つ世界的に知名度が高いアスリートの存在が必要です。日本も招致委員のメンバーに何人かのアスリートが加わりましたが、サッカーの王様ペレほどの知名度と親しみのある人はいませんでした。ペレは1960年代から70年はじめまでが全盛期であり、ブラジルサントスチーム時代の現役のプレーを見た日本人はそんなにいません。全盛期後、約40年近くなりますが、サッカーを含め、スポーツ界の要職を務め、全世界的に知れ渡っている人物であり、世界中にIOC委員を含め多くのAMIGOを持っています。ペレの活躍でブラジルは票の獲得を増やしたと言っても過言ではないでしょう。

 ところで、ラテンアメリカでの挨拶は、親しくなるほど男女とも握手のみでなく、抱擁、になり、これが親密感のバロメーターでもあります。猪瀬東京都副知事も述べていましたが、日本人はこの挨拶の仕方は苦手であり、裏を返せば、そこまで親しくないとも解釈でき、従って、IOC委員の票は獲得しにくいとも言えます。

もっと露骨な言い方をすれば、国連を含め多くの国際会議等でのロビー外交・活動を取り仕切る日本人は極めて少なく、この面での国際化が遅れています。これは日本の歴史が証明しており、欧州との接点は500年前からと言っても、その間江戸時代の鎖国があり、国民間の交流など皆無です。アメリカとの関係も第2次世界大戦後から活発になった程度です。明治政府も進取的精神で、欧米の知識を貪欲に取り入れましたが、一般国民が国際化したわけではありません。従って、一部の外交官、民間人を除き、日本人は国際社会の中で活躍し、世界の人々に対して堂々と外国語で意見を発表し、国際的視野に立って評論をするような人は少なく、これがロビー外交・活動などにも影響しています。

 今後は、五輪大会の招致のみならず、国際会議、イベントなどの誘致には、国際社会に入り、どの程度真のAMIGOを獲得できるかが一つの大きな要素になってきます。そのためには、皇室外交も含め、政治家、外交官、学者、企業家などの国際的な活躍も当然ですが、一般国民の国際化レベルを上げ、やや大袈裟ですが、国民外交を展開し、底辺の底上げが必要でしょう。観光交流はその一つの有力な手段です。


※塩澤名誉教授の辛口インバウンドシリーズ・第2弾は、第10回で終了です。
第3弾の掲載は、著者本人の気力次第です。
投稿をお待ちしています。
なお、本ブログの内容につきましては、観光学研究所のHPにボツボツ掲載をします。
これは、編集者の気力の問題でもあります(苦笑)。
by tourism | 2012-06-10 23:59 | オピニオン
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